ZILLION ARCHIVE ROOM(Yahooブログ移行版)

Yahooブログから流れてきたTVアニメ『赤い光弾ジリオン』非公式ファンサイトです。元々は放映30周年を記念する週刊ブログでしたがそのまま不定期で続いています。

幻のキャラ、バード少尉

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では本編。
赤い光弾ジリオン」第15話に名前だけが登場した「バード少尉」は、その後16話でも言及され、視聴者に強い印象を残した。基本的に一話完結エピソードで構成されるジリオンでは、セシルやアディ、パトロール兵などごく一部のキャラを除いてレギュラー以外のキャラクターが会話レベルでも再登場することはほぼなく、その中で(15〜17話が数少ない連続エピソードとはいえ)名前だけが連続して登場したバード少尉は特異なキャラクターといえる。

バード少尉が作中初めて言及された15話では、主人公J.Jがホワイトナッツメンバーとなったのはコンピュータミスだった、という衝撃的なストーリーが展開される。そこで本来なら選ばれるはずだった人物がバード少尉で、「士官学校を主席で卒業したエリートであり、参謀本部戦略部所属、スポーツ万能で射撃の腕は部内イチ、凄みのあるハンサムだが男にも好かれる好男子」である、と作中最大級の人物評が行われている。実力はともかくムラが多くハンサムとは言いがたい描写がされがちなJ.Jはもちろん、同じ二枚目のチャンプと比べても学歴や性格面でアドバンテージがあり、いわゆる完璧超人として、そのキャラクターはかなり立っている。
となると実際どんなルックスなのか…と期待が膨らむのが人情だが、結果的には、バード少尉が画面に登場することは一切なかった。
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アニメディア1988年2月号ふろく「ジリオン SPECIAL COLLECTION」より

また、本編以外の登場の可能性としては、第17話の予告としてバードが登場し、ウソ予告を繰り広げる案まであったようだ。
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アニメディア1988年2月号ふろく「ジリオン SPECIAL COLLECTION」より

ちなみにジリオンの本放送時には第16話ラストの次回予告は翌週からの傑作選の予告であり、17話の予告が入るのは傑作選のラストなのだが、そうなるとこの予告を見る人は少なくなり、せっかくの仕掛けも日の目を見ない可能性が高い。そのあたりも、このウソ予告が採用されなかった理由の一つかも知れない。この予告でバード少尉の声や性格を知ることができたかも知れないと考えると、それはそれで見てみたかった気もする。
声に関しても、凄みのあるハンサムでエリート、と聞くといわゆるロボアニメの美形ライバル系を想像してしまうが、『機動戦士ガンダム』(1979年)でシャアを演じた池田秀一氏は、ジリオン第20話「失恋パワーでけちらせ」のゲスト、マックス少佐役で出演している。
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赤い光弾ジリオン』第20話よりマックス・シード少佐

このマックス少佐は「凄みのあるハンサム」でさえないものの、十分にイケメンであり、若くして少佐にまで上り詰めたにも関わらず現場で部下の人望も厚く…と、バード少尉のキャラのリサイクルかと思わせるような類似性を持っている。バードがマックスのような柔らかな印象のキャラであったら、意外にすぐホワイトナッツに馴染んでしまった可能性すらある。

バード少尉の生みの親、第15話、16話で脚本を手掛けた山崎晴哉氏(こちら)はアニメディアのムックで、バード少尉のドラマを書きたかったが入らなかったので、機会があれば小説などの形で発表したい、と書かれていた。
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別冊アニメディア赤い光弾ジリオン完璧版」より

その機会は結局来ないまま山崎氏は鬼籍に入られてしまったが、脚本レベルではバード少尉にはもっとたくさんのエピソードが構想されていたようだ。「戦死してしまう」とも書かれているので、15話のニックの死、または16話のJ.J失踪のエピソードは、元々バード少尉を念頭に書かれていたのかも知れない。

と、ここまでバード少尉が本編に登場した可能性について考察したが、しかし実際にセリフ一つ、1カットたりとも本編に登場しなかったことについては、意図的なものがあったのかもしれない。
「丸輪零」名義で第15話の絵コンテを手掛けた押井守氏(こちら)は、「主題の不在」というテーマを何度も追求しており、その最たるものが氏の代表作の一つである『機動警察パトレイバー THE MOVIE』(1989年)となるだろう。
この作品で押井氏は事件の犯人を映画冒頭で映画から退場させ、その後に事件をスタートさせている。犯人を捕えて〆となるべき警察ドラマにおいて、だ。
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機動警察パトレイバー THE MOVIE』より

押井氏は「登場させないことでキャラクターや観客に逆に強く意識させる」ことを、第15話においても意図していたのかもしれない。15話の放映と同時期の押井監督のOVA『迷宮物件FILE538』(1987年)では、主人公の影となる前任者は画面に断片的にしか登場せず、また最後まで主人公と対話することはなかった。ジリオン放映に先立って公開された実写作品『紅い眼鏡』(1987年)でも、そのラストシーンでは顔を完全に覆った装甲服がその持ち主である主人公と対峙しており、押井氏にとって自らの「影」とは、ある意味で不可視な存在なのかもしれない。
J.J復活編たるジリオン17話の放映に数日だけ先駆けて発売された『迷宮物件』のラストでは、それまで積み上げた不条理劇をいきなり無効化させるメタな自己言及がなされる。「そんなやつはそもそも存在しないのだ。だってコレ、フィクションだし」とでも言うように。とすると、バード少尉に惑わされたわれわれ視聴者も、同じ1987年の夏に、まんまと押井氏の術中に落ちていたのかもしれない。

次回は、ジリオンの制作プロデューサー石川光久氏について。