「優しき逃亡者アップル」と映画『グロリア』に見る、ジリオンの元ネタ傾向
第25話「優しき逃亡者アップル」より
新年おめでとうございます。30周年イヤーは終わりましたが、このページはしばらく続く予定です。
『赤い光弾ジリオン』のタツノコ側プロデューサーだった岩田弘氏は、洋画や海外ドラマのようなテイストをジリオンに入れたいと考えていたようだ。それまでOVA『カリフォルニア・クライシス 追撃の銃火』(1986年)など洋画テイストの強い作品を手がけてきた西久保監督と岩田氏は相性が良かったらしく、ジリオンには海外ドラマのような台詞回しや、洋画を彷彿させるキャラクターやエピソードが随所に登場する。
映画『グロリア』のポスターより
米映画『グロリア』(1980年)はアメリカ ニューヨーク派の旗手ジョン・カサヴェテスによる女性アクション映画のマスターピース。印象的に撮影されたニューヨークを舞台に、組織のドンの元愛人である主人公グロリアが組織に追われる黒人少年とともに逃避行を繰り広げる。本作は1999年にシャロン・ストーン主演でリメイク版が制作されている他、リュック・ベッソンの『レオン』(1994年)に影響を与えたことでも知られる。
第25話より
ジリオンの25話「優しき逃亡者アップル」は明らかに本作のオマージュとなっている。少年を連れて逃避行を続けるアップルは年齢相応の感情表現を見せつつも、グロリア同様に「タフさと母性とを兼ね備えたスーパーヒロイン」として描写されている。
グロリアは監督ジョン・カサヴェテスが主演をつとめた妻、ジーナ・ローランズをその年齢を含めて魅力的に描いたことが作品を女性映画の傑作たらしめているが、ジリオンでもヒロイン アップル役をつとめた水谷優子さんがのちに西久保監督と結婚されたことを思うと、改めてこのグロリアとの因縁の深さを感じる。
第22話「ウソから出た大勝利!」より
25話のゲストキャラ ジョニーは一回限りのゲストだったが、ジリオン第1話に登場したアディは第22話「ウソから出た大勝利!」に再登場している。
アディは元々は「ロコ」という名前の男の子だったが、アフレコ時の土壇場で女の子に変更された経緯があり、その初期設定に基づいたと思われるコミカライズ版にその名残が見て取れる(こちら)。
アディは元々は「ロコ」という名前の男の子だったが、アフレコ時の土壇場で女の子に変更された経緯があり、その初期設定に基づいたと思われるコミカライズ版にその名残が見て取れる(こちら)。
スーパーボンボン1987年5月号より
この「アディ」という名前は西久保監督がつけたものらしい。元ネタはピーター・ボグダノヴィッチ監督による米映画『ペーパームーン』(1973年)に登場する同名の少女で、演じた当時7歳のテイタム・オニールが史上最年少でアカデミー助演女優賞を獲得したことでも有名。
アメリカの映画業界はざっくり大別するとハリウッド・メジャーとニューヨーク・インディペンデントに分けられるが、このボグダノヴィッチ監督もニューヨーク派であり、西久保監督へのニューヨーク派、およびその母体となったアメリカン・ニューシネマ運動やヒッピームーブメントからの強い影響を感じる。
『語れ!タツノコ』より
(「向って」が「向かって」でないところがミソ)
西久保監督はジリオン以前にも『手錠のままの脱獄』(1958年)を換骨奪胎したと思しき『黄金戦士ゴールドライタン』(1981年)第48話「標的マンナッカー」(真下耕一氏と連名で脚本も兼任)や、ヒッピームーブメントの象徴的作品『イエローサブマリン』(1968年)を彷彿とさせる音楽アニメ『街角のメルヘン』(1984年)、これもニューシネマの傑作として知られる『バニシング・ポイント』(1971年)風の『カリフォルニア・クライシス』などを立て続けに手がけており、ジリオンもその延長線上にある作品といえるだろう。
西久保監督の次作『赤い光弾ジリオン 歌姫夜曲』(1988年)は、全体としてはニューヨーク派ならぬハリウッドの『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984年)のオマージュ作品だが、キョンシーなどとともに作中で引用されるオマージュは先述した『イエローサブマリン』やニューシネマの代表作『卒業』(1967年)などであり、監督の嗜好がより強く感じられる一作となった。
『赤い光弾ジリオン 歌姫夜曲』より、黄色い潜水艦ならぬピンクサブマリン
次回は、ついに発売となったアップルのフィギュア「ヒロインメモリーズ アップル」の紹介。