アップルの元ネタ
『赤い光弾ジリオン』のヒロイン アップルは1987年を代表するアニメキャラとして高い人気を得たが(こちら)、これは制作側にとってやや予想外の出来事だったようだ。
タツノコにおけるジリオンの前作にあたる『ドテラマン』(1986年)のゲストキャラ サイコーユ鬼の人気を受け、後藤隆幸氏がキャラクターデザイナーとして抜擢されたのは1986年末のことだった。後藤氏の起用には、そのユ鬼とよく似たキャラであるエイミをマスコットキャラとして、当初の番組人気を牽引させたい、との思惑もあったと思われる。
読売広告社のプロデューサー大野実氏の当時の弁によると、アップルは堅物の女戦士として構想され、皆にチヤホヤされるエイミに嫉妬するという、実際に制作された本編からはかなりかけ離れたキャラクター造形だったようだ。
これはジリオンのタツノコ側プロデューサー岩田弘氏の手がけた『超時空要塞マクロス』(1982年)の早瀬未沙(1983年のアニメグランプリ女性キャラ部門1位)、また脚本の渡辺麻実氏のデビュー作『重戦機エルガイム』(1984年)のガウ・ハ・レッシイ(1984年の同2位)といった、当時人気を博したアニメヒロインたちを念頭に置いてのことだったのだろうか。
アップルのキャラクターデザインは、当時の後藤隆幸氏の他の仕事からの影響が大きいようだ。1988年の『MIX NOISE 後藤隆幸作品集』ではアニメ『光の伝説』(1986年)の上条光、2017年のHOBBY JAPAN誌のインタビューでは『きまぐれオレンジ☆ロード』(1984年から連載)の鮎川まどかからの影響が語られており、他にやはり後藤氏の参加していたアニメ『めぞん一刻』(1986年)からの影響も見られる。
胸開きコスチュームの元ネタは『ダーティペア』(1985年)あたりだろうか? 余談だがジリオン放映直前の1987年2月にはダーティペアの劇場版が公開されており、その監督である真下耕一氏がジリオンに合流する予定もあったようだ。
快活さや男二人のブレーキ役という点ではその真下氏が手がけた『未来警察ウラシマン』(1983年)のソフィアという先輩がおり 、また、当時人気が爆発していた日本テレビの刑事ドラマ『あぶない刑事』(1986年)で浅野温子さんの演じたカオル巡査あたりも意識されているかも知れない。
結果的に、ルパンの峰不二子や『戦国魔神ゴーショーグン』(1982年)のレミー・島田のような、自立した女戦士という「大人ヒロイン」枠に近い路線を踏襲しつつも、アップルは彼女たちともまた違う新しいヒロイン像を提示した。その反動からか、OVA歌姫夜曲でアップルに与えられた「過去の悲恋」設定は前述の未沙や不二子、レミーにも存在した「大人ヒロインには欠かせない定番の設定」であり、TVシリーズの新鮮なキャラクターがやや損なわれた感もある。