ジリオン作画列伝(3) ~凄腕揃いの各話作監~
アニメージュ1987年12月号より
TVシリーズ激闘編以前
後藤隆幸(1話)
浜崎博嗣(2,6,11,16話)
渡辺章(3話)
水村良男(4,8,13話)
井口忠一(5,9,14話)
水村十司(7話)
松本勝次(10,15話)
沖浦啓之(12話)
TVシリーズ激闘編以降
沖浦啓之(17,22,27話)
水村良男(18,21,25,31話)
井口忠一(19,24,30話)
松本勝次(20,26,29話)
黄瀬和哉(23,28話)
OVA歌姫夜曲
武田一也
浜崎博嗣氏は新卒で入った竜の子アニメ技術研究所から、若手のホープとして頭角を現した。『未来警察ウラシマン』(1983年)や映画『超時空要塞マクロス 愛おぼえていますか』(1984年)などの話題作にも原画で参加、その華麗なタッチは動画担当者をも魅了し、浜崎氏の原画は取り合いになったという。
浜崎氏はその後のタツノコ作品『OKAWARI- BOY スターザンS』、『よろしくメカドック』(ともに1984年)、『炎のアルペンローゼ ジュディ&ランディ』(1985年)でも原画、作画監督として腕をふるい、うえだひでひと監督とのコンビの最終作となった『昭和アホ草子 あかぬけ一番!』(1985年)で初のキャラクターデザインに抜擢された。続く『光の伝説』ではOPアニメーションを手がけ、『ドテラマン』や、キャラデザも手がけたOVA『アウトランダーズ』(いずれも1986年)を経て、ジリオンのキャラクターコンペに参加、作監ローテーション入りしている。
浜崎氏は雑誌やグッズ、CDなどの版権イラストでもジリオンを支え、後藤隆幸氏とともにジリオンのキャラクターイメージを主導した。以下のイラストも浜崎氏が手がけており、特にアップルの「だっちゅうの」ポーズはネット上でのアップルのイメージを決定付けたといえる。
ムービックの下敷き
浜崎氏はTV版の途中から研究所を離れ(版権イラスト等は継続)、これも後藤氏キャラデザの『ザ・サムライ』(1987年)や『敵は海賊』(1988年)、キャラデザも手がけた『JUNK BOY』などの他、『妖獣都市』(ともに1987年)『魔界都市新宿』(1988年)以降のマッドハウス 川尻善昭監督作品をキャラクターデザインや作画監督として支えた。
この時期の代表作はキャラクターデザインも手がけた『MIDNIGHT EYE ゴクウ』(1989年)や『CYBERCITY OEDO808』(1990年)、『ダークサイドブルース』(1994年)、関俊彦、井上和彦の両氏が主役コンビを演じた『バイオ・ハンター』(1995年)、最後のセル画大作と呼ばれた『バンパイアハンターD』(2001年)などがある。
1999年の『Petshop of Horrors』以降は演出にも進出、『TEXHNOLYZE』(2003年)を皮切りに、監督として多数の作品を手がけている。代表作は『シグルイ』(2007年)、『STEINS;GATE』(2011年)など、監督最新作は『orange』(2016年)。現役のアニメファンにとって、最も知名度のあるジリオン関係者かもしれない。
水村良男氏も竜の子アニメ技術研究所からの参加。タツノコにおけるジリオンの前作となる『ドテラマン』(1986年)ではキャラクターデザインもつとめ、浜崎博嗣、後藤隆幸の両氏とともに80年代のタツノコ作品を支えた。
水村氏はキャラクターのみならずメカ作画でも才能を発揮しており、発進シーケンスのビッグポーターが飛び立つバンク作画なども氏の手掛けたものだそうだ。
後藤氏の洗練されたデザインに影をつけることで肉感を与えるアプローチは水村氏とスタジオムーの黄瀬和哉氏で共通しており、のちの押井監督作品『機動警察パトレイバー』(初期OVA版 1988年)や『機動警察パトレイバー2 THE MOVIE』(1993年)『イノセンス』(2004年)でも水村氏がレイアウトや原画、黄瀬氏が作監として組んでいる。
水村氏は『爆炎キャンパス ガードレス』(1994年)や『お伽草子』(2004年)、CM『ベンツNEXT A-Class』(2013年)のなどの西久保作品にも参加しており、現在もその卓越したメカセンスを生かして『名探偵コナン』(放映中)、自転車アニメ『弱虫ペダル』(放映中)やバイクアニメ『ばくおん!』(2016年)などで活躍中。アニメ界で車両作画といえばこの人!という確固たる地位を築いた。
CD『赤い光弾ジリオン お洒落倶楽部』特典ミニカレンダーより。原画は井口忠一氏
井口忠一氏は1970年にタツノコに入社、『科学忍者隊ガッチャマン』(1972年)から原画キャリアをスタートさせた大ベテラン。西久保監督ら「タツノコ四天王」の先輩にあたり、西久保氏の『軽井沢シンドローム』(1985年)『カリフォルニア・クライシス』(1986年)『デジタルデビル物語 女神転生』(1987年)他、四天王の作品にはかなりの高確率で参加している。
四天王のひとり真下耕一監督の『未来警察ウラシマン』(1983年)ではなかむらたかし、加藤茂の両氏とともにキャラクターデザイン、作画監督として参加、一話の原画をすべて一人で手掛ける「一人原画」を何度も行うなど、突出した仕事を残した。
『未来警察ウラシマン COMPLETE BOOK』より
キャラクターデザインをつとめたOVA『サーキットエンジェル』(1987年)に続いて参加したジリオンでもその精力的な仕事ぶりは健在で、特に19話「勝負!コインを投げろ」などはたった二人で全原画をこなした。バイクや車などメカ作画にも長けた井口氏は、四天王ならずとも頼りになる兄貴分、といったところだろうか。
井口氏はジリオン後も押井監督のOVA『機動警察パトレイバー』やジリオンのOVA『歌姫夜曲』、真下監督のOVA『ドミニオン』(いずれも1988年)などに並列で参加、2018年現在も『弱虫ペダル』等でその健筆ぶりを確認できる。
ジリオンと制作時期の重なるタツノコ作品『おらぁグズラだど(リメイク版)』(1987年)や、ジリオンの後継作品のひとつである『天空戦記シュラト』(1989年)でも松本氏はモブにジリオンキャラを登場させているそうなので、機会があれば確認してみたい。
I.Gでは押井監督とのコンビの印象が強い黄瀬和哉氏は、西久保監督との関係もずっと続いており、作画監督をつとめた1988年のOVA『赤い光弾ジリオン 歌姫夜曲』から『爆炎キャンパス ガードレス』、2014年に公開された西久保監督の劇場最新作『ジョバンニの島』にも原画で参加している。
氏はDVD、BDのジャケットも後藤氏、浜崎氏とともに手がけており、リアルでありながらTVシリーズに近い印象を与えるイラストで、さすがの巧さを見せた。
沖浦氏はジリオンと前後して士郎正宗原作・監督のOVA『ブラックマジック M-66』(1987年)に参加、超大作『AKIRA』(1988年)等を経て、再び士郎氏原作の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)ではキャラクターデザインを手がけた。『人狼 JIN-ROH』(2000年)以降は監督業に進出したが、緻密にアニメートされた画面の高い完成度に比例するかのように、制作期間が長期化する嫌いがあるようだ。
『軌跡―Production I.G 1988‐2002』沖浦氏インタビューより
近年でもその日本トップクラスの作画力は健在で、大ヒット作『君の名は。』(2016年)での作画もアニメファンの話題になった。
アニメV別冊『赤い光弾ジリオン 歌姫夜曲』より、武田一也氏のイラスト