ジリオンの絵コンテ
東京神田の神保町は古書店が集まっていることでも名高い。他ではまずお目にかからない専門性の高い資料を揃えた古書店の中には、映像作品を専門とすることで著名な「矢口書店」などもあり、実写映画やドラマのシナリオに混じって、アニメのシナリオやアフレコ台本なども店頭に並んでいる。
ここで紹介する絵コンテも、神保町の中野書店で20年ほど前に入手したもの。2017年現在では古書店、オークション等でもまったく見かけないため、かなり希少なものではないだろうか。
『赤い光弾ジリオン』第18話絵コンテより
コンテの作者はジリオンの若手演出陣筆頭、小林哲也氏。当時の小林氏は後藤隆幸氏のスタジオ鐘夢に所属し、ジリオンでは1話(西久保監督と共同)、13話、18話、23話の絵コンテを手がけた他、さらに多くの話数で演出を担当している。
アニメージュ1987年11月号「スタジオ訪問 スタジオ鐘夢」より
以前(こちら )にも紹介したように、第18話「ノーザの美しき挑戦」のゲストキャラ「ミンミン」は名前が何度も変わっている。このコンテでミンミンは「オリエ」と表記されており、「ミンミン」となったのはアフレコ時の土壇場だった可能性もある。オリジナルアニメならではの制作のダイナミズムを伝える資料といえよう。
『赤い光弾ジリオン』第18話絵コンテより ミンミンの名前がオリエとなっている
絵コンテはアニメの設計図と呼ばれるが、出版される絵コンテ集は有名な宮崎駿監督や庵野秀明監督、細田守監督など、絵が達者すぎて既に完成品と印象が変わらないものも多い。時間のかけられる劇場アニメと違って毎週の量産体制が求められるTVアニメの絵コンテは、放送されたフィルムと印象が異なるものも多く、その観点からも興味深い。
第18話の絵コンテと、フィルムになった同じシーン
もう一本、こちらは第21話「激突!ザ・スナイパー」から、絵コンテ担当は五月女有作氏。
面白いことに各話コンテでのキャラクターのデフォルメや演技の違いは、フィルムになると違和感はほとんど感じない。アニメにおける表現がいかに「作画」と「声の演技」に依存しているかを感じさせるとともに、TVシリーズを俯瞰的に見る監督のクォリティコントロールの巧みさも注目点だろう。
『赤い光弾ジリオン』第21話絵コンテより
人気絶頂のうちに放映を終えたジリオンはファンからもその終了を惜しまれたが、スタッフやキャストの「もっとやりたかった!」という声の目立つ作品でもあった。全31話のうち最多7話の絵コンテを担当した綴爆(うえだひでひと)氏も、ムック本のコメントでその不満を吐露している。
本編終了後に出たOVA『歌姫夜曲』やCD『あぶないMUSIC』、カセット『シークレット・ティ・パーティ』、後藤氏のコミック『MIX-NOISE』は、そんなファンと作り手の「もっとホワイトナッツと一緒にいたかった」を具現化したものだったのかもしれない。
以前にも紹介した2話参加時点の押井守氏の「すべて見終わったときに、こいつとずっと付き合ってきて良かった、と思われるようなキャラクターが成功なんです」という予言は、のちの押井氏監督作『機動警察パトレイバー』(1988年)を彷彿させるが、ジリオンにおいても押井氏の想像以上の成果を生んだといえるだろう。
アニメージュ1987年4月号より