『赤い光弾ジリオン』25話「優しき逃亡者アップル」より
(前回はこちら )
前回は2014年の『ジョバンニの島』までを追ったが、今回はその後の西久保氏の活動及び、これまでの紹介から漏れていたOVA『闇のパープルアイ』(1988年)と、OVA『ゼクトバッハ オリジナルアニメーション 第1章 シャムシールの舞』(2011年)について触れたい。
『闇のパープルアイ』は週刊「少女コミック」誌に連載された篠原千絵氏の人気マンガ。連載終了から2年を経た1988年にOVA化された本作のほか、10年後の1996年には雛形あきこ主演のドラマ版も登場している。
このOVA版はミュージックビデオという扱いで、ストーリーなどはない。通常のアニメーションよりも原作のコマやイラストをコラージュしたカットが多く、当時流行した「コミックのイメージアルバム」の映像版といった趣がある。
本作の登場は1988年の11月で、監督を手掛けた西久保氏にとってはジリオンのOVA『歌姫夜曲』(1988年)と、TVの『天空戦記シュラト』(1989年)の間、以前の記事では「どんな活動をしていたかは明らかになっていない」と書いた期間にあたる(こちら。その後修正)。制作スタジオがJCスタッフということは、これもOVA『女神転生』(1987年)やそれ以前の『みゆき』(1983年)~『軽井沢シンドローム』(1985年)と同様に、宮田知行氏からの依頼だろうか。
歌姫夜曲の発売が同年6月だったことを考えると、本作の製作はかなり短期間だったと思われる。ジリオンのスタッフでは脚本の渡辺麻実氏、色彩設計の遊佐久美子氏が参加しており、監督としてはジリオンのTVシリーズ、OVA歌姫夜曲の延長線上にある仕事だったのではないだろうか。
西久保氏の次の作品である『天空戦記シュラト』の放映は翌年4月であり、本作の制作が10月までとすると準備期間は5か月しかない。OVA『女神転生』と『赤い光弾ジリオン』TVシリーズの時と同様、現場作業は同時並行で進んでいた可能性もありそうだ。また、この作品の存在によって、ジリオンが『歌姫夜曲』以降OVAシリーズとして続かなかった理由も、(当時のアイジーが劇場版パトレイバーに専念することになったことと併せて)ある程度まで推察できそうだ。
『ゼクトバッハ オリジナルアニメーション 第1章 シャムシールの舞』より
『ゼクトバッハ オリジナルアニメーション 第1章 シャムシールの舞』は、コナミの人気音楽ゲーム「beatmania」シリーズの楽曲から生まれた物語が原作、という変わり種のOVA作品。その出自の特異さと、発売が東日本大震災の直後ということもあってか、アニメファンの間でもほとんどその存在が知られていない作品ではないだろうか。
『ゼクトバッハ オリジナルアニメーション 第1章 シャムシールの舞』より
また、ジリオン関係者の小川浩氏(元アンモナイト)も本作のプロップデザインとして参加しているが、こちらもAIC作品との繋がりからと思われる。西久保作品の常連スタッフである遊佐久美子氏は本作には参加していない。
本作は「第1章」と銘打たれているが、その後続編などは出ていないようだ。
『ジョバンニの島』以降の西久保氏は奥様の病状もあってか、あまり活発に活動されていないように見受けられる。
目立ったアニメの仕事としては『屍者の帝国』(2015年)の演出(3名での共同)として参加されている他、2017年からは文化庁メディア芸術祭アニメーション部門の審査員を務められているようだ。これらの講評によって垣間見える西久保氏の志向やパーソナリティは、作品とはまた別の興味を惹かれるものがある。
2017年
2018年
2019年
……本来はこれで終わるはずだったか、今月になって西久保氏のコンテ担当作品の情報が流れてきたので、こちらを紹介したい。
『中通りく 非常用持ち出し袋を用意しよう』
『中通りく 非常用持ち出し袋を用意しよう』より
わずか4分のWebアニメーションだが、制作には2年もの期間を費やしているとのことで、西久保氏のコンテが描かれたのはかなり以前のことかもしれない。内容はそつのない演出でキャラクターの魅力を見せつつ、非常用持ち出し袋のアピールをさりげなくこなしている。筆者もこれを機会に、非常用持ち出し袋の点検を行った。皆様も是非。
次回はジリオンの豪華なゲスト声優陣についてを予定。
また、このYahooブログは今年いっぱいで終了とのことで、本ブログも夏ごろまでの移転を検討している。残り短い期間ですが何卒お付き合いのほどを。