『赤い光弾ジリオン』35周年。伊東恒久氏がジリオンに込めたもの
『赤い光弾ジリオン』の記念すべき第1話の放映から、今日で35年となる。
今回は予定を変更して、先日亡くなられた第1話の脚本家、伊東恒久氏(こちらやこちら)がジリオンに込めたものを再検証してみたい。
- 第1話「コードネームはJJ」
- 第2話「頭上の敵をうて!」
- 第4話「姿なき忍者部隊のわな」
- 第7話「死闘!JJ対リックス」
- 第10話「炎!リックスの逆襲」
- 第11話「ニュージリオン誕生!」
- 第14話「戦場のナイチンゲール」
- 第18話「ノーザの美しき挑戦」
- 第23話「恐怖!魔のバイオ兵器」
- 第29話「壮絶!リックス死す!?」
- 第30話「惑星マリス絶体絶命!」
- 第31話(最終回)「勝利のラストシュート」
これらの他、1話を書くにあたって必要な世界設定、キャラクター設定の多くも伊東氏の手になっている。おそらくはその関係から、氏は「設定協力」としてメインスタッフとしてもクレジットされている。
その他、伊東氏が構成を担当した総集編ビデオに「JJ対リックス 宿命の対決」(DVDやブルーレイにはなっていない)もあり、これらを手がかりに伊東氏の仕事を検証したい。
担当エピソードを一覧してまず最初に気づくのは、非常に多くのエピソードを担当している(参加ライターでトップ)こと、そして、レギュラーキャラクターの初登場回をすべて伊東氏が担当している(1話、7話、23話)ことだろう。マリス側はもちろん、シリーズ途中から登場するアドミス、ノーザウォーリアーズの初登場回も伊東氏が執筆しており、これらのキャラの設定も伊東氏が多くを担っていると思われ、全体のストーリーを統括する「シリーズ構成」がいない作品ながら、実質的に伊東氏がシリーズ構成に近い立場だったと思われる。
中でも、リックスを始めとしたノーザ側の設定や展開については、そのほとんどを伊東氏が手掛けていたと思われる。第1話では存在のみ明かされるリックスが、第4話で特殊部隊の存在を認知し、第7話でJ.Jと直接対決することで「ホワイトナッツ」「J.J」と名前を認識し、以後J.Jを付け狙うドラマは丁寧に段階を踏んでおり、また、リックスの立場もラスボス(1話〜)→中間管理職(7話〜)→ドラマから脱落(16話〜)→復帰して反逆者(26話~)→J.Jに看取られるように死亡(29話)、と主人公J.J以上に起伏に富んだ変遷をしており、大河ドラマ作者としての伊東氏の力量を感じる。伊東氏は当時「ジリオンスタッフのリックス」と呼ばれていたそうだが、「いい悪役には人生が必要」というポリシーを持つ氏だけに、異星人であるリックスにも挫折と復讐のドラマを求め、より良いライバルとして育て上げたのだろう。
リックスは「J.Jが倒すことのできなかったライバル」となったが、この「決着をつけられなかったライバル」設定、また、「最初に自分にダメージを与えた相手をライバルと認識する」「本来の目的を放棄して、主人公だけに異常に執着する」あたりのキャラクター造形は、伊東氏も脚本で参加していたアニメ『あしたのジョー』(1970年)の力石徹を思い出させ、また、リックスの一時退場後にホワイトナッツのライバルチームとして登場(23話)したノーザウォーリアーズも、氏がシリーズ構成を担った『蒼き流星SPTレイズナー』(1986年)(こちら)に登場する「死鬼隊」を彷彿とさせる。ジリオンが準備期間ほぼゼロの突貫企画であった(こちら)割に、しっかりした作品構造を持ち得たのも、この伊東氏のキャリアあってのものだった。
ドラマへのこだわりが強い伊東氏の脚本は、アンチ・ドラマ志向の西久保監督によってソフィスティケイトされ、ジリオン特有の「さりげないメッセージ性」となって結実した。伊東氏自らが構成したビデオ「総集編1」、逆に伊東氏がノータッチとなったOVA「歌姫夜曲」、それぞれに感じる若干の物足りなさは、TVシリーズにはあった、その「脚本と演出のせめぎ合い」が足りなかったから、とも思える。
氏は「すべてが作りごとのアニメだからこそ、現実の問題を描く力がある」と信じ、作品にはそれを常に込めていた。ジリオンの最終回は、伊東氏が幾多の作品で追い続けたファーストコンタクトテーマの一つの結論であったのだろう。
ジリオン前夜の伊東氏は作家が主張を発言できなくなる世の中を危惧し、晩年は、その通りになってしまった現実を憂いていた。(上記OUTのインタビューが1986年、特撮秘宝のインタビューが2018年)
氏は『おらぁグズラだど』『マッハGoGoGo』『キャプテン・ウルトラ』(すべて1967年)といったアニメ、特撮の黎明期にデビューし、『巨人の星』(1968年)、『レインボーマン』(1972年)などの大ヒット作を手掛け、後年のレイズナーやジリオン、『ガンダムF-91』(1991年)まで、ギャグ、人情、アクション、スポ根、SFに至るまで、あらゆるジャンルで活躍した才人だった。
子供番組といっても手を抜かず、ジリオンにも確固とした「物語の芯」を込めた伊東恒久氏に、改めて感謝と追悼の意を捧げたい。
次回は前回の予定通り、制作プロデューサー石川光久氏と、石川氏と後藤隆幸氏の設立したプロダクションI.Gについて。