『赤い光弾ジリオン』35周年。伊東恒久氏がジリオンに込めたもの
『赤い光弾ジリオン』の記念すべき第1話の放映から、今日で35年となる。
今回は予定を変更して、先日亡くなられた第1話の脚本家、伊東恒久氏(こちらやこちら)がジリオンに込めたものを再検証してみたい。
- 第1話「コードネームはJJ」
- 第2話「頭上の敵をうて!」
- 第4話「姿なき忍者部隊のわな」
- 第7話「死闘!JJ対リックス」
- 第10話「炎!リックスの逆襲」
- 第11話「ニュージリオン誕生!」
- 第14話「戦場のナイチンゲール」
- 第18話「ノーザの美しき挑戦」
- 第23話「恐怖!魔のバイオ兵器」
- 第29話「壮絶!リックス死す!?」
- 第30話「惑星マリス絶体絶命!」
- 第31話(最終回)「勝利のラストシュート」
これらの他、1話を書くにあたって必要な世界設定、キャラクター設定の多くも伊東氏の手になっている。おそらくはその関係から、氏は「設定協力」としてメインスタッフとしてもクレジットされている。
その他、伊東氏が構成を担当した総集編ビデオに「JJ対リックス 宿命の対決」(DVDやブルーレイにはなっていない)もあり、これらを手がかりに伊東氏の仕事を検証したい。
担当エピソードを一覧してまず最初に気づくのは、非常に多くのエピソードを担当している(参加ライターでトップ)こと、そして、レギュラーキャラクターの初登場回をすべて伊東氏が担当している(1話、7話、23話)ことだろう。マリス側はもちろん、シリーズ途中から登場するアドミス、ノーザウォーリアーズの初登場回も伊東氏が執筆しており、これらのキャラの設定も伊東氏が多くを担っていると思われ、全体のストーリーを統括する「シリーズ構成」がいない作品ながら、実質的に伊東氏がシリーズ構成に近い立場だったと思われる。
中でも、リックスを始めとしたノーザ側の設定や展開については、そのほとんどを伊東氏が手掛けていたと思われる。第1話では存在のみ明かされるリックスが、第4話で特殊部隊の存在を認知し、第7話でJ.Jと直接対決することで「ホワイトナッツ」「J.J」と名前を認識し、以後J.Jを付け狙うドラマは丁寧に段階を踏んでおり、また、リックスの立場もラスボス(1話〜)→中間管理職(7話〜)→ドラマから脱落(16話〜)→復帰して反逆者(26話~)→J.Jに看取られるように死亡(29話)、と主人公J.J以上に起伏に富んだ変遷をしており、大河ドラマ作者としての伊東氏の力量を感じる。伊東氏は当時「ジリオンスタッフのリックス」と呼ばれていたそうだが、「いい悪役には人生が必要」というポリシーを持つ氏だけに、異星人であるリックスにも挫折と復讐のドラマを求め、より良いライバルとして育て上げたのだろう。
リックスは「J.Jが倒すことのできなかったライバル」となったが、この「決着をつけられなかったライバル」設定、また、「最初に自分にダメージを与えた相手をライバルと認識する」「本来の目的を放棄して、主人公だけに異常に執着する」あたりのキャラクター造形は、伊東氏も脚本で参加していたアニメ『あしたのジョー』(1970年)の力石徹を思い出させ、また、リックスの一時退場後にホワイトナッツのライバルチームとして登場(23話)したノーザウォーリアーズも、氏がシリーズ構成を担った『蒼き流星SPTレイズナー』(1986年)(こちら)に登場する「死鬼隊」を彷彿とさせる。ジリオンが準備期間ほぼゼロの突貫企画であった(こちら)割に、しっかりした作品構造を持ち得たのも、この伊東氏のキャリアあってのものだった。
ドラマへのこだわりが強い伊東氏の脚本は、アンチ・ドラマ志向の西久保監督によってソフィスティケイトされ、ジリオン特有の「さりげないメッセージ性」となって結実した。伊東氏自らが構成したビデオ「総集編1」、逆に伊東氏がノータッチとなったOVA「歌姫夜曲」、それぞれに感じる若干の物足りなさは、TVシリーズにはあった、その「脚本と演出のせめぎ合い」が足りなかったから、とも思える。
氏は「すべてが作りごとのアニメだからこそ、現実の問題を描く力がある」と信じ、作品にはそれを常に込めていた。ジリオンの最終回は、伊東氏が幾多の作品で追い続けたファーストコンタクトテーマの一つの結論であったのだろう。
ジリオン前夜の伊東氏は作家が主張を発言できなくなる世の中を危惧し、晩年は、その通りになってしまった現実を憂いていた。(上記OUTのインタビューが1986年、特撮秘宝のインタビューが2018年)
氏は『おらぁグズラだど』『マッハGoGoGo』『キャプテン・ウルトラ』(すべて1967年)といったアニメ、特撮の黎明期にデビューし、『巨人の星』(1968年)、『レインボーマン』(1972年)などの大ヒット作を手掛け、後年のレイズナーやジリオン、『ガンダムF-91』(1991年)まで、ギャグ、人情、アクション、スポ根、SFに至るまで、あらゆるジャンルで活躍した才人だった。
子供番組といっても手を抜かず、ジリオンにも確固とした「物語の芯」を込めた伊東恒久氏に、改めて感謝と追悼の意を捧げたい。
次回は前回の予定通り、制作プロデューサー石川光久氏と、石川氏と後藤隆幸氏の設立したプロダクションI.Gについて。
幻のキャラ、バード少尉
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では本編。
「赤い光弾ジリオン」第15話に名前だけが登場した「バード少尉」は、その後16話でも言及され、視聴者に強い印象を残した。基本的に一話完結エピソードで構成されるジリオンでは、セシルやアディ、パトロール兵などごく一部のキャラを除いてレギュラー以外のキャラクターが会話レベルでも再登場することはほぼなく、その中で(15〜17話が数少ない連続エピソードとはいえ)名前だけが連続して登場したバード少尉は特異なキャラクターといえる。
バード少尉が作中初めて言及された15話では、主人公J.Jがホワイトナッツメンバーとなったのはコンピュータミスだった、という衝撃的なストーリーが展開される。そこで本来なら選ばれるはずだった人物がバード少尉で、「士官学校を主席で卒業したエリートであり、参謀本部戦略部所属、スポーツ万能で射撃の腕は部内イチ、凄みのあるハンサムだが男にも好かれる好男子」である、と作中最大級の人物評が行われている。実力はともかくムラが多くハンサムとは言いがたい描写がされがちなJ.Jはもちろん、同じ二枚目のチャンプと比べても学歴や性格面でアドバンテージがあり、いわゆる完璧超人として、そのキャラクターはかなり立っている。
となると実際どんなルックスなのか…と期待が膨らむのが人情だが、結果的には、バード少尉が画面に登場することは一切なかった。
アニメディア1988年2月号ふろく「ジリオン SPECIAL COLLECTION」より
また、本編以外の登場の可能性としては、第17話の予告としてバードが登場し、ウソ予告を繰り広げる案まであったようだ。
アニメディア1988年2月号ふろく「ジリオン SPECIAL COLLECTION」より
ちなみにジリオンの本放送時には第16話ラストの次回予告は翌週からの傑作選の予告であり、17話の予告が入るのは傑作選のラストなのだが、そうなるとこの予告を見る人は少なくなり、せっかくの仕掛けも日の目を見ない可能性が高い。そのあたりも、このウソ予告が採用されなかった理由の一つかも知れない。この予告でバード少尉の声や性格を知ることができたかも知れないと考えると、それはそれで見てみたかった気もする。
声に関しても、凄みのあるハンサムでエリート、と聞くといわゆるロボアニメの美形ライバル系を想像してしまうが、『機動戦士ガンダム』(1979年)でシャアを演じた池田秀一氏は、ジリオン第20話「失恋パワーでけちらせ」のゲスト、マックス少佐役で出演している。
『赤い光弾ジリオン』第20話よりマックス・シード少佐
このマックス少佐は「凄みのあるハンサム」でさえないものの、十分にイケメンであり、若くして少佐にまで上り詰めたにも関わらず現場で部下の人望も厚く…と、バード少尉のキャラのリサイクルかと思わせるような類似性を持っている。バードがマックスのような柔らかな印象のキャラであったら、意外にすぐホワイトナッツに馴染んでしまった可能性すらある。
バード少尉の生みの親、第15話、16話で脚本を手掛けた山崎晴哉氏(こちら)はアニメディアのムックで、バード少尉のドラマを書きたかったが入らなかったので、機会があれば小説などの形で発表したい、と書かれていた。
別冊アニメディア「赤い光弾ジリオン完璧版」より
その機会は結局来ないまま山崎氏は鬼籍に入られてしまったが、脚本レベルではバード少尉にはもっとたくさんのエピソードが構想されていたようだ。「戦死してしまう」とも書かれているので、15話のニックの死、または16話のJ.J失踪のエピソードは、元々バード少尉を念頭に書かれていたのかも知れない。
と、ここまでバード少尉が本編に登場した可能性について考察したが、しかし実際にセリフ一つ、1カットたりとも本編に登場しなかったことについては、意図的なものがあったのかもしれない。
「丸輪零」名義で第15話の絵コンテを手掛けた押井守氏(こちら)は、「主題の不在」というテーマを何度も追求しており、その最たるものが氏の代表作の一つである『機動警察パトレイバー THE MOVIE』(1989年)となるだろう。
この作品で押井氏は事件の犯人を映画冒頭で映画から退場させ、その後に事件をスタートさせている。犯人を捕えて〆となるべき警察ドラマにおいて、だ。
『機動警察パトレイバー THE MOVIE』より
押井氏は「登場させないことでキャラクターや観客に逆に強く意識させる」ことを、第15話においても意図していたのかもしれない。15話の放映と同時期の押井監督のOVA『迷宮物件FILE538』(1987年)では、主人公の影となる前任者は画面に断片的にしか登場せず、また最後まで主人公と対話することはなかった。ジリオン放映に先立って公開された実写作品『紅い眼鏡』(1987年)でも、そのラストシーンでは顔を完全に覆った装甲服がその持ち主である主人公と対峙しており、押井氏にとって自らの「影」とは、ある意味で不可視な存在なのかもしれない。
J.J復活編たるジリオン17話の放映に数日だけ先駆けて発売された『迷宮物件』のラストでは、それまで積み上げた不条理劇をいきなり無効化させるメタな自己言及がなされる。「そんなやつはそもそも存在しないのだ。だってコレ、フィクションだし」とでも言うように。とすると、バード少尉に惑わされたわれわれ視聴者も、同じ1987年の夏に、まんまと押井氏の術中に落ちていたのかもしれない。
OVA『アウトランダーズ』〜ジリオン・ジ・オリジン(5)〜
『アウトランダーズ』VHS版より
『赤い光弾ジリオン』の放映は1987年4月に開始されている。
ジリオンを制作したタツノコプロではその直前までTVシリーズの『ドテラマン』(1987年2月まで放映)(こちら)と、OVA『アウトランダーズ』(1986年12月発売)を制作していた。子供層をターゲットにタツノコ伝統のギャグ、コミカル路線だったドテラマンに対して、カルトマンガをOVA化したアウトランダーズはタツノコの新境地ともいえる。
タツノコの手がけたOVAとしては1985年に登場した『機甲創世記モスピーダ LOVE,LIVE,ALIVE』があるが、これはTVシリーズの映像を元に一部新規映像を追加して作られたミュージックビデオであり、やはり同様な構成の『マクロス Flash back 2012』(1987年)ともども、製作・発売元であるビクター音楽産業(当時)の強い意向を感じさせ、同じくビクター発売の本作にも同様な背景がありそうだ。
本作『アウトランダーズ』は白泉社から発行されていた少年マンガ雑誌「月刊コミコミ」の看板タイトルだった、真鍋譲治氏によるコミックのOVA化作品。コミコミは2021年現在も発行されている白泉社「ヤングアニマル」の前身であり、当時としても、少年誌とは思えぬマニアックな印象のある雑誌だった。『攻殻機動隊』以前の士郎正宗氏も本作と同時期に同誌で『ドミニオン』を発表している。
スペオペとオカルトの融合した世界設定や、アニメ世代らしいキャッチーな女性キャラ、破壊とバイオレンスが漲る思いのほかハードなストーリー展開など多彩な魅力を持つ原作コミックはヒット作となり、満を持してのOVA化となる。ちなみに本作も当時の人気マンガの例に漏れず映像化時点で原作は完結しておらず、本作の「プロローグだけで終わっているように見える」印象はそれも一因だろう。
本作の製作は先述したとおり『メガゾーン23part2』(1986年)でOVA史上最大のヒットを放ったビクターで、1986年末当時、OVAの製作にもっとも積極的だった企業の一つといえる。
タツノコ側のプロデューサー岩田弘氏、監督の山田勝久氏、脚本の富田祐弘氏(寺田憲史氏との連名)はTV『機甲創世記モスピーダ』(1983年)でも組んでおり、かつてトップクラフト時代の旧知であった山田氏を引き抜いてモスピーダの監督に据えた岩田氏の意向の強い座組といえそうだ。
アニメV1987年1月号表紙。原画は浜崎博嗣氏(駿河屋より)
キャラクターデザインと作画監督には竜の子アニメ技術研究所の浜崎博嗣氏がTV『昭和アホ草紙あかぬけ一番!』(1986年)からスライドする形で担当しており、タツノコが劇場マクロスで培ったメカアクションと、浜崎氏の華麗なキャラクターの共演する画面は非常にリッチだ。『うる星やつら』のラムちゃんを彷彿とさせるヒロイン役にラム役だった平野文氏を起用、後の『AKIRA』(1988年)の主演で一気に声優として有名になった岩田光央氏の初アニメ主演(同時期の『時空の旅人』でも主演)、梅津泰臣氏や西島克彦氏などのスターアニメーターの競演、ジリオンに数か月先駆けてのタツノコ作品初のTVゲーム化(ファミコン用ゲームがビクターより発売)等々、トピックも多い本作だが、やはり原作と比べてストーリーや演出面での物足りなさは否めない。
『アウトランダーズ』VHS版パッケージ裏より
ここでタツノコはビクターとの縁が一度切れ、岩田氏の次作となるジリオンではキングレコードと組み、本作に次いでタツノコでは2本目となる完全新作OVA『赤い光弾ジリオン 歌姫夜曲』(1988年)へと繋がることになる。
一方、本作の山田勝久監督とキャラデザイナー浜崎博嗣氏はビクター側のプロデューサー佐藤智子氏とともに、やはりビクター製作でマッドハウス制作のこちらもコミック原作のOVA『JUNK BOY』(1987年)に参加、以後マッドハウス作品を中心に活動してゆくことになる。ジリオンの第16話は浜崎氏にとってタツノコ時代最後の参加作品(ジリオンのレコードジャケット等の版権イラストは引き続き担当)となっており、本作は浜崎氏のキャリアの大きなターニングポイントとなった。
EP「Starry eyes」およびCD「赤い光弾ジリオン WHITE NUTS」のジャケット画像。原画はどちらも浜崎博嗣氏(駿河屋より)
本作のプロデューサー岩田弘氏は本作終了後、ジリオンのプロデューサーに就いているが、これまでの岩田氏のキャリアやジリオンの「宇宙からの侵略者に対して少年少女が立ち向かう」企画内容からすると、企画当初に想定されていた監督候補は山田勝久氏であったのかもしれない。当初予定されていた座組を覆し、西久保瑞穂氏を監督として招聘したのはご存知石川光久氏だが、ここにジリオンが現在見られるような作品になるかの大きな分水嶺があったように思える。
タツノコプロは本作リリースの1986年12月に大規模なリストラを行っているが、本作やドテラマン、そしてジリオンは、その厳しい環境下でスタッフたちが果敢にチャレンジを模索した作品群といえるだろう。
アニメディア1988年6月号より
次回は、本編ではついに姿が登場しなかった幻のホワイトナッツメンバー「バード少尉」について。
(号外)ジリオンオンリーイベント年末開催!&トライチャージャー新作TOY
予告とは異なるが、今回は12月のジリオンオンリーイベントと、急遽発表されたトライチャージャーの新作TOYについての情報となる。更新が延び延びとなった上に予告詐欺となってしまったことをお詫びしたい。
まずはこちらから。『赤い光弾ジリオン』の放映33周年を記念したオンラインイベント「ホワイトナッ党 党員集会」が、本放送時の最終回放映日に合わせて2020年12月13日に開催される。
内容はファンが持ち寄った同人誌即売会と交流会となり、参加にはオンラインイベントを提供するプラットフォーム pictSQUAREへの事前登録が必須となる。
すでに数名の方が出展を表明されており、不肖筆者もこのZILLION ARCHIVE ROOMの一部コンテンツを書籍化して持ち込む予定なので、興味のある方は覗いてみてはいかがだろうか。
参加費は無料だが、即売会で販売するサークルはシステム手数料として550円かかるので注意されたい。
主催は以前に30周年記念同人誌を発行された うりこ さんで、イベントの詳しい紹介は上記リンクに記載されているのでご確認いただきたい。
【宇宙戦士バルディオス】【赤い光弾ジリオン】
— POSE+ (ポーズプラス) (@pose_plus) 2020年10月5日
メタルシリーズで制作決定!#メタルシリーズ #バルディオス #ジリオン #完全変形 pic.twitter.com/QGtnQUBnbu
もう一つ、こちらは先月電撃的に発表された、香港の玩具メーカー「POSE+(ポーズプラス)」によるトライチャージャーの新作TOYとなる。
現在のところまだ「制作決定」以外の情報はなく、発売時期、価格、サイズ、仕様などもすべて謎の状態だが、「#完全変形」とのタグがあるので、リアルタイム当時にセガから発売されたTOYと同様、完全変形が楽しめる模様だ。
ポーズプラス社はすでにバイカンフーでキャラクターフィギュアとロボの装着・融合を実現しているので、トライチャーチャーにもJ.Jのアクションフィギュアが同梱されることを期待したい。
ちなみに、前述したバイカンフーの価格は約6万円、近作であるゴーダムも4万円ほどと非常に高価であるため、トライチャージャーもそれなりの出費を覚悟する必要がありそうだ。購入希望の方はいまから貯金をしておくことをお勧めしたい。
祝dアニメ配信!ジリオンの2つのオープニングフィルム
『赤い光弾ジリオン』OPより
今回はリアルタイムのジリオン情報がいくつか続いたので、まずはそちらを紹介したい。
まずは配信情報。これまでアニメ放題やU-NEXTで配信されていた『赤い光弾ジリオン』TVシリーズがdアニメでも配信がスタート(月額400円)している。さすが業界最大手だけあり、今回の配信ではじめてジリオンに触れた方の感想も多く見られる。
anime.dmkt-sp.jp
次は雑誌からの話題。
2020年6月現在、書店にて発売中の『CONTINUE Vol.65』(太田出版)の光線銃特集で、ジリオンの玩具やスーパーボンボンのコミカライズが紹介されている。
(コミカライズについては、こちらで本ブログでも紹介している)
ジリオンのアニメ化に至る「光線銃ブーム」について興味のある方にはぜひ手にとっていただきたい。
www.ohtabooks.com
もう一つ、こちらも現在発売中の『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)2020年7月号では、人気声優 櫻井孝宏氏が連載エッセイ「ロール・プレイング眼鏡」でジリオンのCD「お洒落倶楽部」への偏愛を吐露している。ごく短い言及だが、氏は「関俊彦さんLOVE♡」とのことなので、今後の連載(今回は第2回)にも期待したい。
ddnavi.com
それでは本題。
ジリオンと同時期に登場した『機甲戦記ドラグナー』(1987年)のオープニングに2つのバージョンがあることは有名だが、ジリオンのオープニングも実は2バージョンあることは、ファン以外にはあまり知られていない。「激闘編」(第17話~)から登場した新バージョンでは、ジリオン銃がニュージリオン(11話から登場済)に描き変えられている。ニュージリオンの形状変化に合わせ、その作画では丁寧なフォローが行われており、以下で細かな検証を行った。
各位、脳内でOP曲「ピュアストーン」を再生しながらお読みいただきたい。
『赤い光弾ジリオン』『赤い光弾ジリオン 激闘編』OPより
ジリオンのホルスターにJ.Jの手が伸びるカット。
『赤い光弾ジリオン』『赤い光弾ジリオン 激闘編』OPより
クルクルとガンスピンを行い、ガッチリとホールドするカット。トリガーガードなしの旧ジリオンでこのアクションは実行可能なのか?はよく話題になる。
『赤い光弾ジリオン』『赤い光弾ジリオン 激闘編』OPより
構えるカットは一瞬だがここも描き変わっている。
『赤い光弾ジリオン』OPより
このチャンプのカットのみ、激闘編の新バージョンでも描き変わっていないようだ。ほんの一瞬だからスルーされたのかもしれない。筆者も今回の検証で初めて見つけたもの。
『赤い光弾ジリオン』『赤い光弾ジリオン 激闘編』OPより
トライチャージャーでのアクションシーン。よく見ると同じアクションでも前景や背景の位置が異なっており、撮影に関してはまったく同じではないようだ。
『赤い光弾ジリオン』『赤い光弾ジリオン 激闘編』OPより
旧ジリオンのコードがなくなって、印象がかなり異なるカット。歌詞のテロップ位置の違いも確認できる(新バージョンのほうが低い位置になっている)。
『赤い光弾ジリオン』『赤い光弾ジリオン 激闘編』OPより
ここももちろん変更。同じカットの最後、アップルのホルスターのジリオンも描き変わっている。
よく見るとJ.Jの口の中の色が異なっており、彩色もやり直している(その際に発生した色指定ミス)ことがわかる。
ちなみに、せっかくのOPフィルムの差し替えにもかかわらず、「ピュアストーン」作曲者大内義昭氏の誤植(「木内」になっている)は修正されなかったようだ。
『赤い光弾ジリオン』『赤い光弾ジリオン 激闘編』OPより
大きく変わったカットその1。アップルのアクションシーン。サブマシンガンタイプのニュージリオンはかなり大きいため、両手でのホールドに変わっている。
『赤い光弾ジリオン』『赤い光弾ジリオン 激闘編』OPより
同じアクションシーンより。サブマシンガンタイプを片手で撃っているのでかなり大きく感じる。
『赤い光弾ジリオン』『赤い光弾ジリオン 激闘編』OPより
こちらも大きく変わったカット。チャンプもジリオンがライフルタイプになり射撃姿勢が変わったため、ポーズと持ち方から異なっている。
『赤い光弾ジリオン』『赤い光弾ジリオン 激闘編』OPより
さすがにこのカットは拳銃タイプでないと成立しないため、このカットのみチャンプもアップルもJ.Jと同じタイプのニュージリオンとなっている。
『赤い光弾ジリオン』『赤い光弾ジリオン 激闘編』OPより
ラスト前。J.Jとアップルのホルスターに注目。
『赤い光弾ジリオン』ブルーレイBOX特典絵コンテ集より、なかむらたかし氏の手になるOPコンテ
こちらはオマケ。絵コンテ段階では、オンエア版とはラストカットが異なっていたようだ。
こうやって細かく見ていくと、OPでのニュージリオンへの変更は元々予定されたものではなく、やはり激闘編に合わせて急遽対応が行われたように思える。これも、激闘編のスタートにあたってスケジュールに余裕ができたことと関係がありそうだ。
zillion-archive-room.hateblo.jp
次回は、ジリオンの放送に先立ってリリースされ、そのスタッフの多くがジリオンに移籍した、タツノコプロ制作のOVA『アウトランダーズ』(1987年)についてを予定。
放映33周年!ジリオンの天丼ギャグ
ムービックから発売されたカセットレーベル
33年前の今日、4月12日(日)にTV放映が開始された『赤い光弾ジリオン』は、基本的には一話完結方式でストーリーが構成されている。毎回のパターンとして「ノーザがアクションを起こす→ホワイナッツに出動命令→ビッグポーター発進バンク→現地で戦闘→解決」という展開が踏襲されるが、その他にも細かい作劇パターンがいくつか見られる。
「J.Jがゲストの女性キャラと知り合って事件が起きる」という、ジリオンとほぼ同時にスタートした『シティーハンター』(1987年)のようなパターンもあるが、今回は特にその初期において顕著な「作中人物が口に出すとすぐその展開になる」というパターンについて検証してみたい。これはシリーズ中で何度も繰り返されるので、一種の「天丼ギャグ」と考えてもいいと思われる。
まずは第1話。
J.Jがアディを安心させようと「このソーラーシステムは滅多なことじゃ壊れないんだからさ」のセリフが言い終わらないうちにソーラーシステムに穴が開く。
第2話。
職員らしき男性が「ノーザが湧いて出るわけじゃあるまいし…」といった直後に雲霞のようなノーザ軍に襲われる。
第3話。
兵士たちが「援軍は来るんでしょうか?」(中略)「もうすぐ!」と会話した直後に援軍が来る(が、直後に巨大砲で全滅)
第5話。
大臣が「ヤシマ研究所ある限り、ノーザおそるるに足らん、といったところかな?」といった直後にノーザのミサイルが直撃。
第6話。
バーンスタイン長官が「まんまと我々の陽動作戦に引っかかってくれたわけだ」と破顔した直後に西部戦線が破られる。
飛んで第8話。
セントビジリア島で熟女たちから逃げ出したJ.Jが「もっと若い女の子はいないもんかねぇ?」といった直後にメルゥを見つけて「いたぁ〜♡」
しばらく飛んで第12話。
J.Jが「なーんだ、俺たちはもう海の牙に狙われてなかったんだ。アッハッハッハ」といった途端に爆雷攻撃を受ける。
第13話。
開幕早々、戦闘機パイロットが「しかし、こんなところにノーザ軍がいるとは思えんが…ん?なんだあれは!?」でミサイルの直撃を受ける。
第14話。
セシルを追って転属願いをするJ.Jが「頭を冷やしなさい!」と水をぶっかけられた直後にセシル救出依頼の電話がかかってくる。
第15話。
パトロール兵が「シャケじゃあるまいし、ノーザがこの運河を遡って来るってか?冗談じゃ…」といった直後に運河からノーザのメカが出現。
第16話。
大要塞のリックスが「出て来いJ.J、早く姿を現わせ!」といった直後に「ホワイトナッツ、接近!」
第18話。
ミンミンにお弁当を作ってもらったJ.Jが「もう死んでもいい!」とバクバク食べるが、直後に喉をつまらせ「死ぬかと思った…」
第19話。
アップルと遺跡に隠れたJ.Jが「次もあっと言うようなところから出てくるかもしれないぜ」といった直後にノーザが壁から出現し、「あっ!?」
第20話。
浄水システムに潜入したエイミが「元・泣く子も黙るホワイトナッツ秘書官エイミ・ハリソン、ノーザなんかに…」と言い終わる前にノーザが目の前に現れる。
第22話。
J.Jとアディが「あっ!チャンプとアップル!」といった(2回目)直後に二人がライディングセプターで乱入。
第24話。
オパオパにJ.Jの行方を訊かれたエイミが「女の子の悲鳴のするトコでしょ!」からの「キャーッ!」
第25話。
アップルから「男の子は泣かないものだぞ!」と諭されたジョニーが泣いてしまう。
第26話。
警備を放ったらかしてノーザを迎撃しようとしたJ.JにMr.ゴードが「敵はもう中に入り込んでいるかもしれないんだぞ!」と説いたが、すでにガードックが潜入していた。
第31話。
1) ノーザの触手に捕らわれたJ.Jが意識が遠のきながら「アップル…チャンプ…」と呟くと2人が救出に現れる。
2) J.Jがチャンプのセリフを受けて「オレたち自身の戦い…か」といった直後に2人でいがみ合いを始める。
この定番ギャグは展開がシリアスになっていくラスト近くには(最終回を除いて)登場しなくなっているが、ジリオンの持つアップテンポで軽快なイメージは、こういった「徹底した展開の早さ」にも支えられているのだろう。これも、一種ドライなキャラクターたちの軽妙な掛け合いや、伸びやかなサウンドとも合わせ、予算のない中で新しいものを貪欲に求めた当時のスタッフのチャレンジ精神の賜物だったのではないだろうか。
次回は、激闘編になって変更されたオープニング映像を検証予定。
ジリオンの総集編ビデオ
ジリオンのビデオソフト化は以前(こちら)にも触れたとおり、放送開始から比較的早い時期に行われている。
TVシリーズ放送中に発売された「誕生編」ビデオは第1話、第2話をそのまま収録したもので、現在では、その後藤隆幸氏によるパッケージイラスト以外の魅力に乏しい。ジリオンの人気次第ではこの一本でソフト化が打ち止めとなった可能性を考えると、レンタル店に置かれるビデオソフトに第1話を収録することで、そこからTV放送の視聴者を増やす狙いもあったのかもしれない。
誕生編パッケージイラスト
今日的な目で楽しめるのは放送終了後の1988年にそれぞれ発売された「総集編vol.1 JJ対リックス 宿命の対決」(7月21日発売)と「総集編vol.2 チャンプ&アップル ファンタスティックメモリーズ」(8月21日発売)の二本となるだろう。こちらはTV放送のフィルムを独自に編集した内容で、「誕生編」と異なり音楽のステレオ化と再アフレコも施され、独自の作品といえるほどの変化を遂げている。こちらはビデオレンタルと同時に、ファンのコレクターズアイテムとしても想定されていたものと思われる。
「総集編vol.1 JJ対リックス 宿命の対決」の構成担当はメインライターの伊東恒久氏。徹底的にシリアスに寄った対決のドラマは氏の過去作、たとえば『巨人の星』(1968年)や『あしたのジョー』(1970年)などを彷彿とさせる。
J.Jとリックスのみをクローズアップした構成のためか、他の登場人物の出番は少なく、その影響でかアバンタイトルのナレーションをJ.J役関俊彦氏自らが行っており(TVはナレーターの小林修氏の担当)、その意味でも貴重な作品といえる。
動画の投稿テスト。ということでVHSしか出てないジリオン総集編1の冒頭ナレーションなどを。やたら聞きなれてる内容だけに、J.J役、関俊彦氏によるナレーションがすんごく新鮮。 pic.twitter.com/txQjJ8Uwgk
— SiFi-TZK (@SiFi_TZK) 2018年5月12日
徹底的にvsリックスに絞り込んだ構成のため、リックスの死でビデオが終わってしまうのは必然とはいえ、その割り切りの大胆さに、初見の人は少々面食らいそうだ。また、J.Jのピンチの原因が毎度ジリオンの撃ち過ぎであることが分かってしまうので、J.Jファンには痛し痒しな作品でもありそう。
本作はVHS版とともにLD版も発売されており、浜崎博嗣氏のジャケットイラストもそれぞれ異なる。
ジャケットイラスト2種
「総集編vol.2 チャンプ&アップル ファンタスティックメモリーズ」は逆に、主人公J.J以外のチャンプとアップルをクローズアップしている。構成はこちらもTVシリーズで多くのシナリオを手掛けた渡辺麻実氏。以前に書いたように(こちら)、ドラマ派の伊東氏に対するキャラ派筆頭がこの渡辺氏と言っていいだろう。
こちらはチャンプ回だった9話と、アップル回である25話を再編集して収録。ホワイトナッツメンバーがVTRを鑑賞している設定で、いきなり主題歌のカラオケバージョンから始まって説明をザクザクと端折る展開は、初見の視聴者をあまり想定しないビデオならでは。
男性ファン待望の25話冒頭のアップルのシャワーシーンは尺の関係でカット…されたように見えて、ラストに詰め込まれた名場面集のような形でネタとして扱われている。
この終盤用に新録されたセリフは感動の最終回をチャンプ役井上和彦氏の家庭事情を暴く楽屋オチに改変(前作vol.1が最終回まで到達せずに終わった補完の意味もありそうだが)するなど、CD「お洒落倶楽部」やカセットブック「シークレット ティ・パーティ」と並んで大胆なセルフパロディを展開した。
VHS「赤い光弾ジリオン チャンプ&アップル ファンタスティックメモリーズ」の大トリのセリフがコレ(笑
— SiFi-TZK (@SiFi_TZK) 2020年1月5日
この一言だけのために速水奨氏が出てるのは贅沢だねー。 pic.twitter.com/QspnxEgZYz
本作もVHSとLDが発売、ジャケットイラストは後藤隆幸氏がつとめている。
ジャケットイラスト2種
上記2種の再編集版ビデオはVAPから発売されたが、もう一本、キングレコードからもミュージックビデオ「エイミ・ペンギンズダイアリー」が、「総集編vol.1」と同日の1988年7月21日に登場している。構成は西久保監督自らが歌に合わせた映像編集をストーリー展開に沿って行うという離れ業で、たった30分のビデオでTVシリーズを見終わった気分にさせてくれる。
こちらのジャケットイラストは浜崎博嗣氏。
LD版ジャケットイラスト
本作はOVA「歌姫夜曲」とともに2015年に発売されたブルーレイボックスの特典として収録されたが、VAP版の上記2作は絶版のままとなっている。
アニメージュ1988年8月号の広告
ちなみに、「誕生編」と同じくTVシリーズをそのまま収録した「赤い光弾ジリオン ベストセレクション」(1988年9月21日発売)も総集編に続いて登場している。収録されたエピソードはアニメージュで募集されたアンケートから選ばれた15,16,17話。こちらも、後藤隆幸氏のジャケットや特典ポスターは新規描き下ろしとなっている。
ジャケット(後藤隆幸画集「Gの旋律」より)
特典ポスター(後藤隆幸画集「Gの旋律」より)
ジリオンは放映終了前後で大きく盛り上がった人気に応える形で、6月のOVA歌姫夜曲、7月に総集編vol.1とペンギンズダイアリー、8月に総集編vol.2、9月にベストセレクションと立て続けにビデオがリリースされており、またその合間を縫うようにレコード「あぶないMUSIC」やカセットブック「シークレット ティ・パーティ」、コミック「MIX NOISE」なども登場している。これら、1988年の6月からの10月にかけて登場したメディア作品の総額は定価で4万円を超えるため、レンタルビデオ以外で、リアルタイムですべてを観たファンはあまりいなかったのではないだろうか。
次回は、放映当時のサイクルでTVシリーズを1年間再視聴して得られたネタの第一弾、繰り返される天丼ギャグについてを予定。
今年もよろしくお願いします。